2004年ごろから、IT企業など、インド企業を日本へと誘致する動きが活発化している。これに伴い脚光を浴びるようになったのが、インドの教育だ。特にインド式数学に関しては、たびたびメディアで取り上げられてきている。今や学生のみならず通信講座に挑戦するビジネスパーソンもいるほどと聞く。
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当然、インド人のためのインターナショナルスクール(インド国際学校)に対する関心は高い。インド人と同じ教育を受ければ、数学が得意になるのではないか。同時に英語も習得できて一石二鳥ではないか。そう考える人が現れても不思議ではない。
現状はどうなっているのだろうか。
IT企業の誘致のため整備されるインド国際学校
そもそもインドのIT企業の誘致に関しては、2000年代以降、日本がインドとの関係強化を図ってきた背景がある。
2カ月ほど前の2011年9月5日~7日、「日印グローバル・パートナーシップ・サミット2011(IJGPS 2011/鳩山由紀夫氏、安部晋三氏や、野田佳彦総理大臣も出席)」が東京都内で開催されたが、その目的は、2000年に森元首相とインドのバジパイ元首相との間で締結した「日印グローバル・パートナーシップ」から10年が過ぎ、改めて日印の包括的経済連携協定の締結など、2国間の協力の在り方を一層強固なものに拡大・強化するというもの。
実際、2010年10月時点で日本からインドへは約725社が進出。在日インド人に関しては1990年には1190人だったが、2010年12月現在で2万2497人と10倍以上に増加している。その要因こそIT企業等の誘致で、神奈川県横浜市や大阪府大阪市など、各地方自治体による誘致プロモーションも活発だ。
これに伴い急がれたのが、IT技術者の子供たちのための学校作りだ。いくら治安がよく、暮らしやすくても、教育環境が整備されていなければ、家族で来日することは難しい。そこで横浜市では2009年にインド系インターナショナルスクールを開校するとし、「ビジネスだけでなく生活面においても、横浜ならではの魅力ある環境を整備し、インド企業やインド人技術者の集積、交流を促進」していくと発表。このとき開校したのがNPO法人「インディア インターナショナル スクール イン ジャパン 横浜校(IISJ横浜校)」。これは「インディア インターナショナル スクール イン ジャパン(India International School in Japan〈IISJ〉)」としては2校目となるスクールだ。
一般のインターナショナルスクールの3分の1の学費!?
「IISJ」の1校目は、2004年江東区に開校。NHK国際放送アナウンサーを務めてきたニルマル・ジェイン(Nirmal Jain)氏が、仲間とともにNPO法人(東京都認可)を組織し、スタートさせた。現在校舎は旧区立第三大島中の校舎を借り受けており、幼稚園から高校まで、全校で460人ほどの生徒が在籍している。
開校の一番の理由は「当時はインド系インターナショナルスクールがなかったから」。IT企業の技術者たちは比較的若い。よって彼らの子供たちは乳幼児から高校生までと若く、学校に通わせなければならない。しかしインドで生まれ育ってきた子供が、いきなり日本の学校に通うことは難しい。また既存のインターナショナルスクールは学費が高額すぎる。それだけに「それまでは父親が単身赴任をするケースが多かった。しかしインドでは家族のつながりを大切にしている」。そこでジェイン氏は家族が一緒に暮らせるように、学校を設立したいと考えた。
生徒は8割がインド国籍、2割はそのほかで、うち日本国籍の生徒の割り合いは5、6%にとどまるとジェイン氏は話す。
ジェイン氏はこの学校やインド国際学校が日本人に注目されるのを興味深いとしながらも、その理由を次のように分析する。
「英語教育を受けたいのであれば、普通のインターナショナルスクールに通えばいいし選択肢は多い。ただ一般的に、インターナショナルスクールは学費が高い。IISJの学費はそうした一般のインターナショナルスクールの3分の1程度。さらに英語を修得でき、数学教育にも優れていることから、この学校に通わせたい、この学校の“システム”が知りたいと思うのではないか」。
インド式教育は“システム”ではない
ただしジェイン氏自身は、昨今増えてきている日本人の入学希望者を、必ずしも大歓迎しているわけではなさそうだ。理由はシンプルで、IISJは、あくまでも、インド国籍の生徒のための学校だからだ。
「この学校に興味を持つ日本人の親たちの多くは、優れた教育を受けさせてくれるIISJに通わせれば、自分の子供にも自然と高い学力が身に付くのではないか、この学校の教育にはシステムがあり、そのシステムを生かせば、子供の学力を挙げられるのではないかと考えているのかもしれない」(ジェイン氏)。
しかし残念ながらIISJでの教育は、システム化されているわけではない。ここに通う生徒たちが優秀なのは、あくまでも彼らがインドで生まれ育ったからだという。当然のことながら、教育には文化的背景が不可欠。「学校での教育と、文化的背景が与える影響は50/50だと思っている。特に在日インド人家庭においては、母親が高学歴ながらも専業主婦であることが多い。その母親たちのほとんどが教員免許を持っている。インドでは家庭での学習も重視されるが、そうした母親のサポートがあるからこそ、生徒の学力が上がると考えられている」(ジェイン氏)。
だからこそ、近年オファーが多いという、この学校の“教育カリキュラム”を生かしたビジネスについては、今のところ予定していない。教育に関する評価は真摯に受け止めつつも、インド国籍の生徒たちに見られる教育的効果が、日本の生徒たちにも表れるのかどうかは未知数だ。「大切なのは教育であって、ビジネスではない」(ジェイン氏)。
これまでのところ、日本人でIISJを卒業した生徒はまだいないが、参考までに、IISJに通う生粋の日本国籍の生徒に関して尋ねると、「英語の壁があるため多少時間はかかるが、成績は悪くないと思う。また幼稚園からここで学んでいる子供のほうがより成果は出やすい。一番の壁は、やはり言語なのだと感じている」(ジェイン氏)。
なおインドの文部省の認可を得た学校なので、IISJで得た単位はインド帰国後の学校でも認められるが、インターナショナルスクールである以上、卒業しても日本の大学を受験できる資格はない。ただし、今後は取得していく予定もあるそうだ。
いずれにせよ、「インド式教育」はシステムではなく、身につけるのは簡単なことではないということを、改めて肝に銘じる必要があるだろう。
(文/山田真弓=日経トレンディネット、通訳=Meme Communications)
(この記事は社会(nikkei TRENDYnet)から引用させて頂きました)
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